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梅の花が咲く時節も終わりに近づき

池袋に出かけた折に、梅の花を見に目白庭園に足を運んだら、既に見ごろは終わっていました。紅梅は散り終えて、白梅が幾分咲き残っていました。梅花は小さいながら花弁の輪郭が明確で、可憐さがあり、顔を近づけてその一つ一つをじっくり見るのが私の好みです。万葉集で詠まれた花と言えば、桜ではなく梅でした。古今和歌集で漸く桜が詠まれます。梅の歌と言えば、菅原道真が太宰府に左遷され京を離れる際に詠んだ、

  東風吹かばにほひおこせよ梅の花、
主なしとて春な忘れそ

という歌が有名ですね。太宰府天満宮で販売されている合格祈願の鉛筆にも印刷されています。参道の両脇には、「梅が枝餅」という銘菓を売る店が軒を連ねており、焼きたては柔らかくてとても美味しいのです。

現代では花見といえば桜が相場ですが、かつて明治以前には梅の花も同じように愛されていたようです。永井荷風が晩年の随筆で「梅花を見て興を催すには漢文と和歌俳句との素養が必要になってくる。されば現代の人が過去の東洋文学を顧ぬようになるに従って梅花の閑却されるのは当然のことであろう。」と記していました。荷風が亡くなってから60年以上もたつ現在では、かつての教養は完全に忘れ去られているようです。

(KY)